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黄色ブドウ球菌(Staphylococcus)
ブドウ球菌 (Staphylococcus) 属は、19世紀末に化膿巣からはじめて分離されました。菌の形態・配列がブドウの房状に見えることから、ブドウ球菌と名付けられました。
ブドウ球菌は、人や哺乳動物の皮膚や粘膜などに生息し、現在49種類の菌が知られています。その中で一番問題となるのが黄色ブドウ球菌 (S. aureus) です。黄色ブドウ球菌の病原性が強い理由としては、さまざまなタンパク性毒素を産生することが挙げられます。たとえば、毒素性ショック症候群毒素 (TSST-1) は免疫系の重要な細胞であるTリンパ球にはたらき強い炎症を引き起こし、毒素性ショック症候群の原因になります。ブドウ球菌エンテロトキシンと呼ばれる毒素はTSST-1と同様に炎症を起こしますが、さらに嘔吐毒としてはたらき、ブドウ球菌性食中毒を引き起こします。一方、表皮剥奪毒素は皮膚にはたらき、黄色ブドウ球菌性熱傷様症候群の原因となります。それでは、黄色ブドウ球菌はすべての人にとても危険な病原体かというと、健常成人の鼻腔に約20%程度常在しており全く無症状なのです。従って、健常人では皮膚化膿疾患を起こすものの、重篤な感染症を起こす頻度は低いと考えられます。問題は基礎疾患をもつなど免疫力の低下した人で、肺炎、敗血症、骨髄炎、関節炎などの重篤な感染症を引き起こします。この典型が、薬剤耐性を示し院内感染症の最大の原因微生物であるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)です。最近、由来は異なりますが、病院外でも小児やアスリートなどさまざまな人で問題となっている市中型MRSAと呼ばれるMRSA感染症が広がりつつあり、大きな問題となっています。MRSAを含む黄色ブドウ球菌感染症は接触感染により拡がりますので、日常生活では、清潔を保ち、けがをした場合には適切な処置をし、感染箇所には触れないことが大切です。
中根 明夫(弘前大学大学院医学研究科感染生体防御学講座)