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アシネトバクター属菌(Acinetobacter species)
Acinetobacter属菌はギリシャ語でacineto(無動性)、bacter(桿菌)という意味のMoraxella科に属する菌種です。大きさ1.0~1.5×1.5~2.5 mの球桿菌で、発育に酸素を必要とし、名前の由来通り運動性はありません。カタラーゼ試験は陽性、オキシダーゼ試験陰性のブドウ糖を発酵分解しないグラム陰性菌です。Acinetobacter属菌は自然環境中に広く生息しており、またヒトの皮膚(主に腋窩や足の指の間)などにも常在していますが、通常健常人に感染症を引き起こすことはほとんどありません。一方、病院環境中においては、吸入装置、ベットレールなど無生物の表面上でも長期間生息できることから、ときとして易感染患者に対して血流感染や呼吸器感染症を引き起こすことがあります。現在、臨床材料からの分離頻度が最も高い菌種はAcinetobacter baumanniiで、本菌は人工呼吸器を使用している患者に人工呼吸器関連肺炎を引き起こすことから、院内肺炎起因菌として重要視されています。
Acinetobacter属菌(なかでもA. baumannii)は遺伝子変異に適合する能力および様々な耐性メカニズムを集積する能力に長けており、臨床現場では-ラクタム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系抗菌薬などに耐性を獲得した菌株が出現しています。そして、このような薬剤耐性菌の出現により治療に難渋する事例も年々増加してきております。このような3系統の薬剤すべてに耐性を示すAcinetobacter属菌については、院内感染のアウトブレイク事例も報告されていることから、わが国では本菌を多剤耐性アシネトバクター(multi-drug resistant Acinetobacter sp.; MDRA)と称し、本菌による感染症を5類全例数告疾患に指定して、その動向を監視しています。
川村 久美子(名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻 病態解析学講座 准教授)