理事長ご挨拶

昨年末に日本細菌学会の理事・評議員の改選を完了いたしまして、本年、令和3年(2021年)1月をもって新しい理事体制が整いました。これに伴い、私も理事に再任され、この度、第57代日本細菌学会理事長を拝命し、新理事の皆様とともに日本細菌学会の舵取りをすることとなりましたので、この場をお借りして、一言ご挨拶申し上げます。

さて、今期2期目を迎えることとなりましたが、1期目(2018年〜2020年)の3年間の任期中には、細菌学会の最優先の取組事項として、① 学会活動の見える化(可視化)、② 産官学および関連学協会との連携強化、③ 会員増に向けた会員制度の見直し、などに理事会、執行部が一丸となって取組んで参りました。

例えば、学会研究活動の可視化の一環として、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生する直前の2019年12月には、オリンピック・パラリンピック開催を控えてインバウンド感染症についての市民公開講座を東京大学弥生キャンパスにて開催し、一般市民の方を中心とした参加者からは大きな反響がありました。その前後の2019年末、中国武漢での感染流行に端を発した新型コロナウイルス感染のパンデミックがグローバルに拡大するなか、細菌学会の啓発活動も一旦中断せざるを得ない状況となりましたが、細菌学会から注意喚起したインバウンド感染が、皮肉にも百年に一度と言われる新型コロナのパンデミックというかたちで人類に大きな影を落とすことになりました。一方、パンデミックが急速に拡大し開催が危ぶまれる中で、昨年2月には荒川宜親総会長のもと第93回日本細菌学会総会を名古屋にて無事開催することができました。また、本年の3月の第94回日本細菌学会総会はオンライン開催となりますが、コロナのピンチをチャンスに換えるという、松下治総会長の優れた機転力により極めて魅力的なプログラムとコンテンツが企画され、昨年と遜色のない学術集会となるものと期待しています。

武漢でのアウトブレークから1年が経過してワクチンによる感染制御という一筋の光明が見えてきたものの現状ではいまだに新型コロナのパンデミックが世界を席捲しています。最近ようやくNature誌が、飛沫感染・空気感染(あるいはエアロゾル感染)が主であって接触や糞口はマイナーな経路であると指摘しています。このウイルスは上下気道に親和性があり、上気道感染だけであれば感冒程度ですみますが、下気道で増殖すると肺炎を引き起こし重症化します。上気道伝播は飛沫感染で、下気道はエアロゾル(空気)感染であり、飛沫は数ミクロン以上で比較的大きいのでマスクで防御できますが、エアロゾルはナノ粒子対応マスクでなければ効果的に感染予防できません。すなわち、感染経路の遮断が感染予防制御となるという点は、細菌性伝染病であるペスト、コレラ、赤痢、結核などに加えて、スペイン風邪やエイズの衛生学的な防衛対策と同様であり、新型コロナにあっても感染拡大の仕組みを理解できればその脅威は確実に軽減可能です。つまり、感染経路の解明と遮断による感染コントロールは、100年前のインフルエンザパンデミック・スペイン風邪の時代、さらには、北里柴三郎先生をはじめ世界の細菌学の開祖と先達の叡智とたゆまぬ努力にとり積み上がられてきた感染防衛戦略であると言えます。

日本細菌学会の創立当初から脈々と継承されてきた学会活動のミッションは「細菌学および、その関連領域の科学の進歩に寄与し社会に貢献すること」であります。その系譜には、1902年(明治35年)に、第1回日本医学会(微生物・寄生虫学・衛生学の連合部会)が開催されて以来119年、1927年に北里柴三郎先生が総会長として第1回衛生学微生物学寄生虫学聯合学会(第1回日本細菌学会総会)を開催されて以来94年という長い歴史があります。実際、日本細菌学会は、学会創設当初より現在に至るまで、日本の生命科学の原点という立場から、細菌学、微生物学、感染症学および関連領域の研究と教育、また学術・教育・公衆衛生・医療行政において、アカデミアを牽引する大きな役割を担ってきました。

コロナの時代にこそ、本学会において長年取組まれてきた研究と教育の実績、学会員が有する感染制御の基盤技術と情報および高いレベルの専門知識と技術を、学生・若手研究者や次世代の人材育成、および一般市民に向けた啓発活動に最大限に活用することが、細菌学会に求められる喫緊の課題であると確信しています。さらに、コロナ後の細菌学と感染症研究、さらには生命科学・医学研究のあり方を見据えるなかで、これまで私共が取組んできた革新的な学会運営を強力に推進することで、日本細菌学のより一層の発展に努める所存ですので、会員の皆様の変わらぬご理解と、これまで以上のご支援、ご指導を賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。

令和3年2月1日
第57代日本細菌学会理事長 赤池 孝章
(東北大学大学院医学系研究科)

第56代理事長 赤池孝章(東北大学大学院医学系研究科環境保健医学分野)