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百日咳菌(ボルデテラ・パーツシス Bordetella pertussis)
1906年,ジュール・ボルデ (Jules Bordet) と オクターブ・ジャング (Octave Gengou) は,百日咳の症状を起こした乳児の痰から,百日咳の起因菌を分離することにはじめて成功しました。この菌は,のちに百日咳菌 (Bordetella pertussis) と命名され,その属名のなかに発見者である Bordet の名が残されています。本菌以外に百日咳症状を起こす菌として,パラ百日咳菌 (ボルデテラ・パラパーツシスBordetella parapertussis)と ボルデテラ・ホルメシイBordetella holmesii があげられます。百日咳菌に感染すると,とても強いけいれん性の咳発作に発展することがあり,特に,生後 6 ヵ月以下の赤ちゃんでは重症化する傾向にあるので注意が必要です。また,本菌の感染力は麻疹ウイルスと同様に強力であり,ワクチン未接種の赤ちゃんでは百日咳患者の飛沫で 90% 以上が感染すると報告されています。百日咳菌のおもな病原因子として,百日咳毒素,線維状赤血球凝集素,パータクチンなどがあり,これらはワクチン抗原として利用されてきた経緯があります。しかし,百日咳菌がなぜ重篤な咳を起こすのか,なぜヒト以外の動物に感染しないのかについては,よくわかっておりません。わが国では,1970年代のなかばに起きたワクチン投与後の死亡事例のため,百日咳ワクチンの接種を一時的に中断したことがあります。しかしこの判断により,百日咳の流行が再び起きて,多くの赤ちゃんが亡くなりました。これを重く受け止め,これまでの全菌体ワクチンから,より副反応の少ない無細胞ワクチンが開発され,現在に至っております。百日咳はワクチン予防可能疾患 (vaccine-preventable diseases)の一つですが,わが国の成人百日咳患者は増加傾向にあり,楽観できない状況にあります。
阿部 章夫(北里大学・大学院・感染制御科学府)