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ヘリコバクター・ピロリHelicobacter pylori

ヘリコバクター・ピロリの学名は「らせん」とか「旋回」の意味を示すヘリコという言葉が語源で、旋回させて動くバクテリア(バクター)という意味の属名です。また、菌種名ピロリは胃の幽門部分(ピロルス)を指す言葉で、この細菌が発見された部位の名前をとって命名されています。そもそも胃の中に、らせん状の桿菌が存在することは病理学者の間ではよく知られた話だったといわれていますが、この菌の培養に成功し初めて1983年に報告したのは2005年のノーベル生理学賞・医学賞受賞者のロビン・ウォーレン博士とバリー・マーシャル博士です。当時は助手であったマーシャル博士がたまたまイースターホリデーの休暇に入って、培養時間が伸びたために培養に成功したのは有名な話です。

ピロリ菌はヒトの胃に棲息し、胃・十二指腸潰瘍の原因となるほか、MALT(Mucosa-Associated Lymphoid Tissue)リンパ腫の発生や胃癌のリスクファクターとして知られます。グラム陰性、端在性に数本の有鞘性鞭毛を持つらせん状桿菌*であり、微好気発育性、強いウレアーゼ活性などの特徴があります。病原性に働く重要な分子としては、細胞空胞化作用が知られるVacA空胞化毒素、TypeIV分泌装置によって接着している細胞内に打ち込まれるエフェクター分子であるCagAタンパク質があり、癌の発生にも深く関与していると考えられています。また、ピロリ菌は培養時間が経過した後や、増殖に都合の悪い環境条件になると、コッコイドフォーム(球状菌)へと変化します。特に、この菌の発育条件の一つである、酸素濃度の低い微好気環境から空気中や酸素のない嫌気条件下に入ると、その変化は促進されるといわれています。難培養性の球状化菌の役割は十分には解明されておらないものの、胃上皮細胞への付着性状*やIL-8酸性誘導能を有していることから病原性へ何らかの関与があるものと考えられています。

大崎 敬子(杏林大学医学部)

Helicobacter pyloriらせん状菌と、コッコイドフォーム
Helicobacter pyloriのMKN45細胞(胃癌由来細胞株)への付着