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放線菌とその関連細菌

ジフテリア菌
(コリネバクテリウム・ジフテリアエ Corynebacterium diphtheriae

1920〜1940年はじめまで小児の感染症の死亡原因の一位を占めた細菌です。グラム染色で青色に染まり(グラム陽性)、まっすぐか少し弯曲した中等大の桿菌で、しばしば一端または時に両端が膨大しています。異染小体染色を行うと黄褐色の菌体の中に1〜数個の青黒色の異染小体(ポリリン酸塩)がみられます。菌は患者の咽頭および鼻腔の粘膜に感染して増殖します。その結果、生体防御の第一線で働く細胞(白血球)、および血液成分(フィブリン)と増殖している細菌からなる偽膜が感染した場所に形成されます。菌はこの偽膜内で増殖して、大量の毒素を産生します。この毒素が血流に入って全身に広がり、心臓、肝臓、腎臓などの全身障害を起こします(ジフテリア症)。この毒素は細胞のタンパク合成機能を阻害し,少量で細胞を死に至らしめる作用があり、患者の死亡率は5〜10%,5歳以下と40歳以上では20%以上といわれています。重症化を免れた場合、やがて回復します。回復後、菌は鼻咽腔の粘膜から徐々に2〜3週で消失しますが、2〜3ヵ月も消えないこともあります。偽膜内の菌は、68℃ 1時間でも生存し、暗所では数ヵ月、また唾液や水中などでは数日〜10数日間感染力を保っています。

治療は毒素に対する血清療法と菌に対する化学療法の併用が望ましく、ペニシリン、セファロスポリン、エリスロマイシンなどの抗生物質が有効で、およそ2週間使用します。血清療法と化学療法の併用療法を行うとジフテリア菌は速やかに消失し、かつ治癒後に保菌者になることがないといわれています。しかし、発症して重症化すると死に至る可能性が高いため、ワクチン接種による発症の予防が最も大切です。現在わが国では、ジフテリアトキソイド(D)と破傷風トキソイド(T)を混合したDT、さらに百日咳ワクチン(P)を加えた3種混合のDPTワクチンの接種が決められたスケジュールで実施されています。

宮本比呂志(佐賀大学医学部病因病態科学講座 微生物学分野)

トキソイド
毒素液を長期間放置すると、その毒性はしだいに消失しますが、抗原性(抗体という生体防御に働く物質を誘導する能力)は完全に残っています。抗原性は保存され毒性の消失した状態になったものをトキソイドと呼びます。
血清療法
トキソイドおよび毒素をウマに注射し、一定期間経過したのちに採血して得られたウマの血液には毒素を中和する物質(抗体)が多量に含まれています。この血液の一部(血清)を発病早期に大量に投与する治療法。