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ブルセラ(Brucella)
クリミア戦争中、地中海のマルタ島ではイギリス兵の間でマルタ熱(別名:地中海熱、波状熱)と呼ばれる原因不明の熱病が流行していました。当時軍医として駐在していたディビット・ブルース(David Bruce)が、1887年にマルタ熱患者から原因菌を発見しました。この菌はブルースの名にちなんでブルセラと呼ばれています。その後の調査により山羊乳が感染源であることが分かりました。現在ではブルセラによって引き起こされる感染症をブルセラ症と呼んでいます。人では波状熱が特徴的な症状ですが、動物が感染した場合、人でみられるような熱症状はみられず、流産や不妊が引き起こされます。菌は乳汁中に排泄されることから、乳製品を介した食品由来の感染症として注意が必要です。牛、山羊、羊、ラクダの未殺菌の生乳あるいはそれを材料とした乳製品の摂取が原因となります。感染動物の筋肉および内蔵にも菌が含まれているため、肉類の生食は感染の危険性があります。動物の感染は一部の清浄国を除き世界中でみられ、特に地中海地域、アラビア湾地域、モンゴル、インド、中央および南アメリカでは多くの発生があります。日本における人の感染事例は稀ですが、海外で感染して帰国後に発症した事例があります。ブルセラは人や動物の細胞の中で増える性質があります。細胞の中で増えることができないブルセラは病気を引き起こさないことから、この細胞内増殖能が病原性と関連があると考えられています。症状のみから診断することは難しく、血清中のブルセラに対する抗体を検出することにより診断を行っています。
度会 雅久(山口大学農学部)