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ガス壊疽菌群(Histotoxic clostridia)
交通事故や災害などに伴う大きな外傷により、血行が障害され、皮下組織で細菌が増殖して、ガスが作られる感染症が起こることがあります。皮膚は青銅色になり水疱ができて激しい痛みを伴います。病巣は急激に拡大して筋肉の壊死が進み、悪臭を発し、ショックを起こして死亡することもあります。これをガス壊疽といいます。ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、ノービイ菌(C. novyi)、スポロゲネス菌(C. sporogenes)、セプチクム菌(C. septicum)などのClostridium属細菌が原因となるので、これらの菌種をまとめてガス壊疽菌群と呼びます。いずれも芽胞をつくるグラム陽性桿菌であり、酸素が無い方がよく増殖します(偏性嫌気性)。土壌中には不活発な芽胞の形で分布しており、外傷性のガス壊疽の原因となります。ヒトや動物の腸管内にも常在するので、糖尿病などの免疫不全状態では内因性のガス壊疽を起こすことがあります。
ウェルシュ菌は食中毒の原因菌でもあります。通常の細菌は加熱調理で殺菌されるが、本菌の芽胞には耐熱性があり調理後も生残しています。「寸胴鍋」のような深鍋で調理すると、食品中の酸素が減少して、嫌気性菌である本菌の芽胞が発芽・増殖しやすい環境が整います。さらに、自然冷却では深鍋の温度は下がりにくく、高めの温度で速やかに増殖する本菌には最適な環境となります。予め深鍋で大量調理され放置されたカレーやシチューなどが原因食となった大規模な食中毒事件(給食病)が多いです。大量に増殖したウェルシュ菌を含む食品を喫食すると、本菌は腸管内でさらに増殖し芽胞を形成しますが、その際に腸管毒素を産生して下痢などを起こします。
これらの疾病の発症には、ガス壊疽菌群が産生する種々の毒素が関与しています。予防と治療につなぐため、毒素の産生調節機構や作用機構の解明などの研究が学会会員により精力的に進められています。
松下 治(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)