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マイコプラズマ・モービレ(Mycoplasma mobile)
淡水魚のエラに壊死を起こすと考えられているマイコプラズマ・モービレ(以下、モービレと略)は長さ約1マイクロメートルほどの小さな細菌です。モービレや、ヒト肺炎の原因菌として知られるマイコプラズマ・ニューモニアエは菌体の片側に“滑走装置”を形成し、その突起で動物組織など固形物の表面にはりつき、滑るように動く“滑走運動”を行います。マイコプラズマの滑走運動は、寄生、ひいては病原性に密接に関係しています。これまでヒトに肺炎を起こすマイコプラズマ・ニューモニアエをはじめ、十数種類のマイコプラズマが滑走することが見つかっていますが、その最速種がモービレで、その速度は、毎秒4マイクロメートルにも達します。運動性を持つ細菌の多くは、べん毛と呼ばれる尻尾を回転させることで遊泳します。また、ヒト、植物、アメーバなどを含む真核生物は、筋肉と共通の仕組みで動きます。ところが、マイコプラズマの滑走運動はそのどちらとも根本的に異なります。日本細菌学会では、このユニークな運動メカニズムの研究に世界に先駆けて取り組み、多くのことを明らかにしました。すなわち、滑走装置の表面に約50ナノメートルほどの柔らかい“あし”が多数生えています。滑走装置内部でATPが加水分解されると動きが生じ、その動きが細胞膜を超えて“あし”に伝わります。“あし”は宿主表面の構造である、シアル酸オリゴ糖をつかんだり、ひっぱったり、離したりして、菌体を前に進めます。
宮田 真人(大阪市立大学大学院理学研究科)