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炭疽菌(バチルス・アンシラシス Bacillus anthracis)
炭疽菌は19世紀末に世界で初めて病原菌として単離され、人類が初めて弱毒生菌ワクチンの開発に成功した細菌です。炭疽菌は炭疽を発症させる病原菌であり、ヒトでは主に皮膚(皮膚炭疽)、呼吸器(肺炭疽)および消化器(腸炭疽)に傷害を引き起こし、治療が遅れると致死率が90%を超える非常に危険な病原体です。皮膚炭疽の病変部は、炭疽菌が産生する毒素によって皮膚表面の細胞が壊死し黒く変色するため、皮膚が炭化したように見えることから炭疽という病名がつけられました。また、炭疽は人獣共通感染症のため、ヒトのみならず多くの動物にも感染し、敗血症等の症状を引き起こし、動物を死に至らしめます。近年、日本国内では炭疽症例は報告されていませんが、全世界における炭疽の年間発症件数はヒトで2万人、家畜では100万頭に達します。
炭疽菌は、他の有芽胞菌と同様に周囲の環境変化に伴って芽胞を形成し、土壌などの環境中に広く常在しています。炭疽菌の芽胞は、熱、乾燥、紫外線及び薬剤といった物理的及び化学的要因に対して高い耐久性を示し、このため炭疽菌によって汚染された地域から菌体を除去することはきわめて難しいと考えられています。一旦、炭疽菌で汚染された地域では、芽胞が付着した草などを動物が摂取し炭疽を発症することで、さらに汚染を拡大していると考えられています。2001年米国で発生したバイオテロリズムで用いられた白色粉末は炭疽菌芽胞であり、炭疽菌は自然感染だけではなく生物兵器などによる人為的な感染も危惧されている病原体の一つです。
東 秀明(北海道大学人獣リサーチセンター)