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エロモナス(Aeromonas)
エロモナスはカエルの’’red leg’’病の病原菌として19世紀末には認識されていましたが、1930年代になり、エロモナスと命名されました。本菌は古くから魚類、両生類、爬虫類の病原菌として知られていましたが、ヒトの病原菌として注目を集めるようになったのは1950年代以降になってからです。
エロモナスは河川や湖沼などの様々な水環境に常在する細菌です。沿岸海域にも生息しますが、淡水環境に多く生息します。エロモナスは魚類に対して病気を引き起こす事から、養殖業や観賞魚飼育などの水産業においてしばしば問題となります。ヒトに対しては、主に腸管感染し、下痢症を引き起こします。エロモナスによる集団下痢症の事例はなく、散発例で発生します。また、エロモナスは発展途上国からの海外渡航者下痢症の原因菌の一つとして知られています。エロモナスの中でも、エロモナス・ハイドロフィラ、エロモナス・ソブリアは1982年に食中毒原因菌に指定されました。
エロモナスは腸管感染症の他に、創傷感染症、腸管外感染症を引き起こします。腸管外感染症は慢性肝炎や糖尿病などの基礎疾患を有する人や免疫力が低下している人で報告されます。重篤な腸管外感染症としては、蜂巣炎、壊死性筋膜炎や敗血症が知られており、その主な原因菌はエロモナス・ハイドロフィラ、エロモナス・ソブリアです。壊死性筋膜炎を生じる細菌は「ヒト喰いバクテリア」として総称されますが、エロモナス・ハイドロフィラはその一つとして知られています。2012年夏には、米国で健常な成人女性がエロモナス・ハイドロフィラによる壊死性筋膜炎を発症し、両手と両足の一部の切除に至った事例が報道され、社会に衝撃を与えました。
高橋 栄造(岡山大学医歯薬学総合研究科)
- ◆蜂巣炎
- 皮下組織などに広範に生じる急性化膿性炎症。しばしば悪寒戦慄を伴う高熱を発する。局所の痛み、腫れ、皮膚の発赤、熱感を伴う。
- ◆壊死性筋膜炎
- 皮下組織から筋膜にかけて広範な壊死性炎症をきたす細菌感染症。好発部位は軽微な外傷を受けやすく、細菌の侵入経路となりやすい四肢であるが、特に下肢に多い。
- ◆敗血症
- 皮膚や粘膜、種々の臓器の感染巣から細菌が血液に入り、全身に広がる重篤な感染症。