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口腔細菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス Porphyromonas gingivalis

ポルフィロモナス・ジンジバリスはポルフィロモナス属に含まれる細菌です。属名ポルフィロモナスは血液寒天培地上の集落(コロニー)がポルフィリン色素(porphyrin)により黒色化することに由来し(図1)、種形容語のジンジバリスは歯肉(gingiva)に由来します。偏性嫌気性(酸素のある環境では生育できない)で、糖を栄養源として利用できず、もっぱら生育域にあるタンパク質を分解して栄養源としています。そのため、強力なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を菌体表面や菌体外に分泌します。このプロテアーゼのなかでもっとも重要なものがジンジパインです。ジンジパインはヘモグロビン結合タンパク質やペプチジルアルギニン‐デイミナーゼなどの他の菌体外産物とともに9型分泌機構(type IX secretion system, T9SS)で分泌されます。また、歯周局所への定着に重要な線毛を菌体周辺にもっています(図2)。線毛には2種類あり、Fim線毛とMfa線毛と呼ばれます。これらの線毛と類似する線毛は腸内に生育するバクテロイデス属細菌にも多くみられ、5型線毛(type V pilus, T5P)と総称されます。その他の病原因子としてリポ多糖(lipopolysaccharide)、菌体外小胞(extracellular vesicle;図2)、硫化水素などの細胞傷害物質などがあります。

ジンジバリス菌は40歳以降の成人の多くが罹患する慢性歯周炎の歯周局所から分離されることが多く、タンネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)やトレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)という細菌とともに慢性歯周炎のレッド・コンプレックス(最重要歯周病原細菌)とされます。また、ジンジバリス菌を始めとする歯周病原細菌による慢性歯周炎は他の器官・臓器の疾患と密接な関係があるといわれています。それらの疾患には粥腫性動脈硬化、虚血性脳血管疾患、関節リューマチ、早期低体重児出産、非アルコール性脂肪性肝疾患などがあります。これらの疾患との関連についてはその有無を含め、現在、精力的に研究が進められています。

中山 浩次(長崎大学)

図1 血液寒天平板上でのジンジバリス菌の集落
ヘモグロビン由来のポルフィリン色素が菌体表面に蓄積することで集落が黒色化している。
図2 ジンジバリス菌の電子顕微鏡像
線毛と菌体外小胞が菌体周辺にみえる。
◆ ジンジパイン
システインプロテアーゼに属するタンパク質分解酵素。ジンジパインには類似した2つの酵素があり、標的となるタンパク質内のアルギニン残基あるいはリシン残基のC末端で加水分解するため、アルギニン‐ジンジパイン、リシン‐ジンジパインと呼ばれる。アルギニン‐ジンジパインは2つの遺伝子(rgpArgpB)に、リシン‐ジンジパインは1つの遺伝子(kgp)にコードされている。どちらも菌体表面および菌体外に分泌されてはじめてタンパク質分解活性が生じる。
◆ 9型分泌機構(T9SS)
細菌は菌体内で合成されたタンパク質を菌体表面あるいは菌体外に分泌するための機構(分泌機構)をもっている。グラム陰性菌の場合、少なくとも8種類(1型~7型、9型)がある。9型分泌機構は、もっとも最近になって発見された機構であり、バクテロイデーテス門に含まれる多くの細菌がこの分泌機構をもっている。本機構で分泌されるタンパク質にはC末端に共通のモチーフがあり、C末端ドメイン(CTD)やT9SS分泌シグナルと呼ばれる。
◆ 5型線毛(T5P)
細菌の線毛にはその機能から付着線毛と性線毛がある。付着線毛は細菌が宿主に定着する際に重要な線毛である。線毛形成のメカニズムの違いから、シャペロン‐アッシャー型線毛、4型線毛、5型線毛、カーリー線毛、4型分泌線毛、およびソーターゼ介在型線毛がある。その中で5型線毛はもっとも最近になって発見された形成様式の線毛で、バクテロイデーテス門バクテロイディア綱に含まれる多くの細菌が有している。5型線毛を構成するタンパク質(ピリン)はリポタンパク質輸送系で菌体表面まで運ばれ、菌体表面のプロテアーゼによってN末端が除去されることでピリンの重合が開始し、線毛が形成される。