新規抗菌薬の開発に向けた6学会提言

「耐性菌の現状と抗菌薬開発の必要性を知っていただくために」
―提言発表の背景と目的―

公益社団法人 日本化学療法学会 理事長 渡辺 彰
同 創薬促進検討委員会 委員長 舘田一博
日本細菌学会 理事長 神谷 茂

抗菌薬に対する耐性菌の出現と蔓延が世界的な問題としてクローズアップされています。 2011年4月7日のWorld Health DayにおいてWHOは「Antimicrobial Resistance: No Action Today, No Cure Tomorrow」というメッセージを発信しました。また、2013年に米国CDCがカルバペネム耐性腸内細菌を「悪夢の耐性菌」として大きく取り上げたことは記憶に新しいところです。さらに今年の4月にはWHOが「Antimicrobial resistance: global report on surveillance 2014」を発表しました。耐性菌問題は現在の医療の中でももっとも難しいテーマの1つであり、またグローバルな視点と学際的な対応が求められる問題と考えておかなければなりません。

このような状況の中で、日本学術会議は2013年6月のG8サミットにおいて、「病原微生物の薬剤耐性菌問題:人類への脅威」という共同声明を発表し、感染症治療薬の新規開発の必要性を提唱しました。そしてこの声明と時を同じくして、日本化学療法学会が中心となり創薬促進検討委員会が発足、このたび日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会、日本細菌学会、日本薬学会とともに本提言がまとめられました。本委員会の特徴は、関連学会の委員はもちろんのこと、行政側から厚生労働省、文部科学省、経済産業省、さらに創薬関連の企業の方々にも多数ご参加いただき、医療・サイエンスの視点に加えて、製薬産業としての抗菌薬開発・国際貢献の重要性についても議論されていることです。これまでに世界標準の抗菌薬を多数創出してきた日本に何が求められているのか、今どのような対策を講じるべきであるのか、本提言は我々が進むべき方向性を明示しているものと確信しています。

しかし、耐性菌・創薬促進の問題は本提言だけでは解決できないことは明らかです。創薬促進検討委員会では、本提言に続くメッセージを発信し続けるとともに、創薬促進につながるインセンティブをどのように生み出していくか、薬価算定・市場独占期間・臨床治験費用などの問題に対して継続した議論が必要であると考えています。また、わが国のこれまでの輝かしい抗菌薬開発の歴史の中で蓄積された人的・物的リソースと新規抗菌薬のシーズをどのように生かすか、関連企業が効果的な協力・連携体制を構築できる土俵創り “創薬コンソーシアム構想” も大きな柱となるでしょう。そして何よりも耐性菌問題に対する国民の皆様のご理解が重要であり、その上ではじめて、本委員会が目指す創薬促進の歯車が再び動き出すものと信じております。引き続き皆様方のご理解とご協力をどうぞ宜しくお願いいたします。